治療について

矯正治療における拡大とは?

更新日:2025/01/17

矯正治療における「拡大」とは、上顎の骨の横幅を広げ、歯が移動するスペースを確保する治療方法を指します。 
骨の構造により下顎の骨は拡大できないため、拡大治療は上顎にのみ適用されます。 
顎の成長を促し、上顎のスペースを広げることで、歯列の改善が期待できます。 
以下では、矯正治療における拡大のメカニズム、適応症、治療方法について詳しく解説します。 

拡大の概念とその目的

矯正治療における「拡大」とは、上顎の骨の横幅を広げ、歯が移動するスペースを確保する治療法です。

上顎の歯列が狭く、奥歯の噛み合わせに問題が生じている場合や、顎の成長が不十分な場合に行われます。 
歯列や顎の幅が狭いと、歯並びが乱れやすく、噛み合わせに不具合が生じやすくなります。 
そのため、拡大によって上顎の骨の横幅を広げることで、歯の位置が調整しやすくなり、噛み合わせの改善に繋がります。 
さらに、成長期の拡大によって上顎の幅を広げておくことで、将来抜歯をしなくても歯並びが整う可能性が高まります。 
ただし、すべての方が適応ではないので注意が必要です。

拡大のメカニズム 

拡大は、矯正装置によって力を加えながら、左右の顎の繋ぎ目である正中口蓋縫合が開くことで上顎の横幅が広がる仕組みを利用します。

まだ正中口蓋縫合の癒着が弱く、骨が広がりやすい混合歯列期(6~12歳頃)が適応時期で、年齢が進んでくると正中口蓋縫合の癒着が強まるため、拡大しにくくなります。 

顎の発育と骨のリモデリング

拡大は、顎の発育を促進する効果もあると言われています。 
特に、成長期のお子さんの場合、まだ顎の骨が柔軟であるため拡大の効果がより期待できます。 
拡大は、骨のリモデリング(再構築)といって、骨の一部が破壊され、その後新たな骨が形成される仕組みによって上顎の横幅を広げていきます。 
これには矯正装置を使って顎に一定の力を加え続ける必要があります。 

拡大の期間と調整

拡大治療は、最短で3ヶ月、最長でも6ヶ月程度で治療が完了します。 
治療中は、固定式の矯正装置に1〜2日おきに少しずつ力を加えながら、徐々に上顎を広げていきます。 
矯正装置の調整は、患者さん本人か、本人だけで難しい場合は保護者の方の協力が必要です。 
上顎の骨が広がっても、すぐに装置を外すと後戻りの可能性があるため、正中口蓋縫合部分に新しい骨が定着するまではしばらく装着しておく必要があります。

拡大の適応症

拡大は、以下のようなケースに適応されます。

(1) 顎の狭窄(上顎の幅が狭い)

上顎の幅が狭いと、歯が適切に並ぶスペースが不足するため、スペース確保のために拡大が適応になります。 
上顎の横幅を広げることで、歯の位置が調整しやすくなり、噛み合わせの改善も期待できます。 

(2) 歯列にスペースを作りたい場合 

乳歯の時点で歯が重なって生えている場合や、今後永久歯が生えてくるスペースが明らかに不足している場合に、拡大が適応になります。 
永久歯の生え替わりの前に、拡大によって予めスペースを確保しておくことで、スムーズに永久歯が生える可能性が高まります。 
しかし、成長によって骨は動き続けるため、拡大しても綺麗な歯列がキープできるとは限りません。 

(3) 顎の成長不足 

顎の成長が不十分である場合、拡大によって顎の成長を促す事ができます。 
その結果、後の矯正治療を円滑に進めやすくなり、最適な治療結果に繋がります。

拡大の治療方法 

拡大に使用される代表的な装置を紹介します。 

(1) 上顎急速拡大装置(RPE) 

上顎急速拡大装置は、最も一般的に使用される拡大装置です。 
別名で、急速上顎拡大の略である「rapid maxillary expansion(RPE)」とも言われています。 
中央部分にネジの付いた装置を、上顎の大臼歯部に(永久歯の場合、小臼歯部にも)バンドで固定します。 
ネジを少しずつ回転させることで、上顎の横幅が徐々に広がるように設計されています。 
この装置は固定式のため、広がるスピードも早く、拡大する幅も大きいため優れた効果が期待できます。 


(2) 床拡大装置

床拡大装置は、患者が取り外しできるタイプの拡大装置です。 
ただし、床拡大装置は顎ではなく、歯列を広げる目的で使用されるので注意が必要です。 
プラスチックのプレートとワイヤーでできた装置の中央部にネジがあり、このネジを回した後に口腔内に装着することで、歯列を徐々に外側に広げていきます。 
床拡大装置は横幅だけでなく、前方にも歯を広げる場合があるため、歯列は整ったものの過度に歯列が前方に突出してしまい出っ歯になる問題も危惧されています。 
床拡大装置は、しっかりとした診断の上で使用されれば良い治療結果が望める場合もあります。 
しかし、場合によっては拡大した結果、出っ歯になる、噛み合わせが悪化してしまう、などの問題が生じかねないので注意が必要です。 


(3)アンカースクリューによる拡大 

成人や、骨の成長が終了した患者に対しては、拡大装置とアンカースクリューを併用して拡大を行う場合があります。 
この方法では、上顎の骨に小さなインプラント(アンカースクリュー)を埋め込み、そのアンカースクリューを基盤として矯正力を加え、顎を広げます。 
骨の成長が終了した、正中口蓋縫合の癒着が強い成人の方でも効果的に顎の拡大を行う事ができます。 


拡大の治療期間と注意点 

拡大治療は、最短で3ヶ月、最長でも6ヶ月程度かかり、期間は患者の年齢や顎の状態によって異なります。 
治療中は急激な力は加えず、少しずつ装置を調整しながら、徐々に顎の骨を広げていきます。 
拡大が完了した後でも、新しい骨が定着するまでは数ヶ月間、装置を付けたままの状態になります。 
すぐに装置を外すと、後戻りしてしまう可能性があるため注意が必要です。 


まとめ 

矯正治療における拡大は、歯列や顎の幅を広げるために非常に重要な治療方法です。 
顎の幅を広げることによって歯が移動するスペースが確保され、歯並びや噛み合わせの改善が期待できます。 
拡大治療は、上顎が狭窄している場合や、歯列にスペースが不足している場合、顎の成長が不十分な場合に効果的であり、上顎急速拡大装置、床拡大装置、アンカースクリューのような矯正装置が使用されます。 
適切な治療開始時期に適切な装置によって治療を行う事が非常に重要です。

この記事を書いた人

オルソペディア編集部

オルソペディア編集部です。矯正関する知識やコラム、お役立ち情報など様々な記事をお届けします。

カテゴリー: 矯正歯科コラム

タグ: ワイヤー矯正

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